おおとものやかもち
718年頃 - 785年
奈良時代後期の貴族・歌人。三十六歌仙の一人。大伴旅人の子。越中守、因幡守などを歴任し、万葉集の編纂に関わったとされる。
名門・大伴氏の嫡男として生まれ、聖武天皇の時代に青春を過ごしました。越中守として赴任した時期(746-751年)に創作のピークを迎え、223首もの歌を残しています。帰京後は藤原氏との政争に巻き込まれ、不遇の時代を過ごしましたが、晩年は陸奥按察使持節征東将軍として東北に赴任し、そこで生涯を閉じました。
繊細で優美な歌風が特徴。自然の風景に自らの心情を重ね合わせる技法に優れ、「春愁三首」に見られるような、近代的な孤独や愁いの感情表現は、万葉集の最後を飾るにふさわしい深みを持っています。
新しき年のはじめの初春の今日ふる雪のいや重け吉事
あらたしき としのはじめの はつはるの きょうふるゆきの いやしげよごと
訳:新しい年のはじめにあたって、このようなきれいな雪が降りつづいている。今年もこのように美しい良い年でありますように。
春の野に霞たなびきうら悲しこの夕かげに鶯鳴くも
はるののに かすみたなびき うらがなし このゆうかげに うぐいすなくも
訳:春の野に霞がたなびいて、なんとなくもの悲しい。この夕暮れの光の中で、鶯が鳴いていることだ。
わが屋戸のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも
わがやどの いささむらたけ ふくかぜの おとのかそけき このゆうべかも
訳:私の家の庭のわずばかりの竹群に吹く風の音が、かすかに聞こえるこの夕暮れであることよ。
うらうらに照れる春日にひばり上がり心悲しも独りし思へば
うらうらに てれるはるひに ひばりあがり こころかなしも ひとりしおもえば
訳:のどかに照っている春の日に、ひばりが空高く舞い上がって、私の心は悲しい。独り物思いにふけっていると。
春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ乙女
はるのその くれないにおう もものはな したでるみちに いでたつおとめ
訳:春の園の桃の花が紅に美しく咲き映えている。その木の下の道にたたずんでいる乙女よ。
海行かば水漬く屍山行かば草生す屍大君の辺にこそ死なめかへり見はせじ
うみゆかば みづくかばね やまゆかば くさむすかばね おおきみの へにこそしなめ かえりみはせじ
訳:海を行けば水に漬かった屍となり、山を行けば草が生す屍となろうとも、大君のお足元でこそ死のう。後ろを振り返ることはしない。
あしひきの山下響め鳴く鳥の声聞くごとに君を偲はむ
あしひきの やましたとよめ なくとりの こえきくごとに きみをしのわむ
訳:山の麓に響き渡るように鳴く鳥の声を聞くたびに、あなたのことを思い出すでしょう。